低血圧で朝起きられないことが多いという方、もしかしたらビタミンDが足りていないことが原因かもしれません。
血圧は、自律神経により調節されていますが、心臓の筋肉が弱くなることでも低血圧の原因になります。
低血圧に加え、むくみや筋力低下などの症状がある場合、ビタミンDが足りていないおそれがあります。
ビタミンDは太陽に当たることで皮膚から合成されることが多いため、食事からでは十分に補えません。
では太陽に十分当たればよいのか?と思われるかもしれませんが、ハワイ在住者でもビタミンDが足りていない人が多いのです。
ビタミンDは、筋肉の収縮に重要なカルシウムイオンの濃度を調節しているため、ビタミンDが不足することで筋肉の収縮が弱まり、血圧が下がります。
これは、ビタミンDのはたらきについて知ることで理解できるかと思います。
まず、簡単にビタミンDについて説明します。
一言「ビタミンD」と言っても、実はビタミンDには、D2~D7 までの6種類が存在しています。
その中で、主に私たちのからだに作用するのは、ビタミンD2とビタミンD3の2つです。
ビタミンD2 は、食べ物から摂取する植物由来のもので、ビタミンD3 は、私たちの皮膚から合成されるものです。
私たちのからだに必要なビタミンDの9割以上は、皮膚からの合成によりまかなわれています。
ビタミンDは、作られる過程で出来る「非活性型」と、合成が完了した「活性型」の二種類があります。
ビタミンDは、食事では魚介類や干ししいたけから多く摂取でき、皮膚に太陽の光(紫外線β波)が当たることでも合成されます。
ビタミンDは、非活性型ビタミンD [ 25(OH)D ] として摂取、合成され、肝臓と腎臓を経て活性化されたのち、活性型ビタミンD [ 1,25(OH)2 ]となります。
そして、ビタミンDのはたらきを理解する上で一番大切なことは、「非活性型」と「活性型」の二種類がそれぞれはたらきを持つ、ということです。
ビタミンDのはたらきは多岐にわたりますが、非活性型ビタミンDのはたらきの一つに、「血液中のカルシウムイオンの濃度を維持」があります。
体内のカルシウムの約 99 % は骨や歯に蓄積され、残りの 1 % はカルシウムイオンとして血液などの体液や筋肉に存在しています。
筋肉の収縮は、筋肉に存在するカルシウムイオンによって調節されています。
筋肉は筋原線維からなり、その線維を構成しているのはアクチンとミオシンというタンパク質です。
筋肉は、アクチンとミオシンがスライドすることにより収縮します。そして、この収縮を調節しているタンパク質がトロポニンです。
トロポニンは、カルシウムイオンと結合し、筋肉を収縮させるというスイッチの役割をしています。
非活性型ビタミンD によりカルシウムイオンの濃度が一定に保たれることで、骨格筋の収縮力が増強し、筋力が強化します。
また、心臓を動かす筋肉である心筋のポンプ力も増強し、血液を送り出す力が強まります。
しかし、ビタミンD が不足すると血中のカルシウム濃度が低下します。
筋肉は、細胞内にカルシウムイオンが流入することで収縮するため、カルシウム濃度が低下すると筋力が弱くなります。
心臓の筋肉が弱くなると、血液を全身に送り出す力が弱まるため、血圧が低くなります。
全身に血液が行き渡りにくくなるため、多くの細胞でエネルギーと酸素が不足します。
そのため、疲労やだるさ、むくみなどの症状が出てきます。
さらにビタミンD が欠乏状態まで達すると、骨の痛みを感じるなどの症状が出て、骨軟化症やくる病、骨粗鬆症になります。
そして、背骨や関節が変形したり骨折しやすくなったりします。
ビタミンDは、その多機能な生理作用を持つことから別名「長寿ホルモン」と呼ばれています。
上述したはたらきに加え、ビタミンDの素晴らしいはたらきを紹介していきます。
① 骨や歯の強化
活性型ビタミンDは、食品などからカルシウムやリンを吸収するのを促すはたらきがあります。
小腸において活性型ビタミンDは、カルシウムを腸粘膜へ運搬するカルシウム結合タンパク質をたくさん作るようにはたらきかけます。
そこでたくさん作られたカルシウム結合タンパク質が、カルシウムに結合し、腸粘膜へ運 び、粘膜からカルシウムが吸収されます。
吸収されたカルシウムは血液中に流れ込み、カルシトニンという甲状腺ホルモンのはたらきによって骨や歯に沈着 します。
このように骨の主要成分であるカルシウムが効率よく吸収されることで、丈夫な骨や歯を維持できます。
② 自己免疫疾患の予防
免疫とは、自己と非自己 (病原菌やウイルス) を識別し、非自己を排除する生体防御システムです。
そのシステムの一つとして 、T 細胞による非自己の攻撃・排除という免疫反応があります。
T 細胞は、通常作られる過程で自己を認識して攻撃する可能性のあるものは除かれます。
しかし、なんらかの原因でここで自己を認識する T 細胞が排除されないと、非自己だけでなく自分の体内に必要な物質までも攻撃してしまい、慢性的に炎症がおこります。これが自己免疫疾患です。
自己免疫疾患には、Ⅰ型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、橋本病、潰瘍性大腸炎などがあります。
胸腺での T 細胞の選択は、100 % の正確性がないため、自己に反応してしまう T 細胞も少なからず産生されます。
活性型ビタミンD は、ビタミンD 受容体を持つ T 細胞の受容体に結合し、それにより自己に反応しておこる過剰な免疫応答を抑制するはたらきがあります。
③ 高血圧の改善
また、活性型ビタミンDは、腎臓で*レニンの合成を抑制することにより、高くなった血圧を下げるはたらきをします。
*レニン
血管収縮作用、血中のアンジオテンシンを活性化させて血圧を高める作用がある。
② インスリン感受性を高める
インスリンとは、血糖値(血中ブドウ糖濃度)を下げる作用を持つホルモンで、ブドウ糖を摂取することで分泌されます。
このとき、非活性型ビタミンD はインスリンの分泌を促し、細胞のインスリン感受性を高めるはたらきをします。
これにより、高血糖が防がれて、動脈硬化をはじめ、高脂血症や肥満、糖尿病の予防につながります。
③ いくつかのがん予防
乳がん、皮膚がん、大腸がん、骨がんを含む多くのがん細胞では、ビタミンD 受容体を発現していることがわかっています。
この受容体にビタミンD が結合すると、がん細胞が生存するために必要な細胞分裂、分化などが抑制され、細胞の自発死(アポトーシス)を誘発します。
コホート研究において、137,567人を対象とした16の前向き研究の総括とメタ解析により、血液中の非活性型ビタミンD 濃度が 20 ng/ml 増加するごとに、がん全体の発症率が 11 % 減少し、がんによる死亡率も 17 % 減少することが報告されています。
④ 認知機能を高める
非活性型ビタミンD は、神経細胞を保護する作用もあり、神経細胞の変性や、アルツハイマー病の原因因子であるアミロイドβ の蓄積を防ぎます。
そのため、認知症やアルツハイマー病、パーキンソン病などの予防になります。
⑤ 呼吸器感染症の予防
非活性型ビタミンD は、免疫系を活性化するはたらきもあります。
感染症を引きおこす病原体を殺す「カテリシジン」という抗生物質を合成します。
そのため、風邪やインフルエンザ、肺炎、結核などの予防になります。
⑥ アトピー性皮膚炎の改善
非活性型ビタミンD は、皮膚の抗菌作用を強め、化膿菌の増殖を抑えるはたらきがあります。
⑦ 心血管疾患の予防
非活性型ビタミンD は、血管壁を保護するはたらきがあり、動脈硬化や血管内皮障害を防ぎます。
そのため、高血圧、冠動脈疾患、心不全、脳卒中などの予防につながります。
花粉症は、体内の免疫に花粉が異物とみなされることでアレルギー反応がおこります。
花粉を攻撃している細胞は、何年も存在しているものがいるため、毎年毎年花粉にさらされると症状が悪化していくのです。
近年では、上述したビタミンDの作用により、ビタミンDが免疫反応を正常化するようにはたらくことで、花粉症の症状改善につながると考えられています。
ビタミンDが不足している人に、ビタミンDのサプリメントを飲んでもらったところ、鼻通りなどの症状が改善されたという報告もあります。
ビタミンD が足りているかは、血液検査で非活性型ビタミンD [ 25(OH)D ] の項目を測定してもらうことでわかります。
基準値として、 20~100 ng/ml が正常値、 20 ng/ml 以下が欠乏症とされていますが、20~30 ng/ml は不足状態です。
ビタミンD の第一人者であるボストン大学のマイケルホリック博士の研究では、ハワイ住人の大半がビタミンD 不足に陥っていることがわかっています。
また、20 代の日本人女性の平均ビタミンD 量が、60 代の日本人女性の約半分量ほどしかないこともわかっています。
その主な原因は、日中に屋内にいて、陽に当たらないことです。
また、陽に当たっていても日焼け止めを塗っていれば皮膚でビタミンD が産生されません。
とくに冬場は症状が悪化し、季節性うつになる人もいます。
さらに、魚を食べる量が少なかったり、リーキーガットなどの腸の不調も、ビタミンD が不足する原因です。
ビタミンDは、長寿ホルモンというだけあり、上記の様にたくさんのはたらきがあります。
一方で、多くの人がビタミンD不足に陥っているという不足しがちな栄養でもあります。
ビタミンD不足を改善さえていくには、日に当たることも大事ですが、日の当たり方や当たる時間、毎日の食事も大切になります。
また、サプリメントなどで補う場合は、過剰摂取にならないように気を付ける必要があります。
解消法のページでは、効果的な日の当たり方や、ビタミンDを増やす効果的な食事、サプリメントの摂取目安と過剰摂取の危険性などを解説しています。
参考文献
・ Sekiya T, et al. Nr4a receptors are essential for thymic regulatory T cell development and immune homeostasis. 2013; 220-
237.
・ Lin R, White JH. The
pleiotropic actions of vitamin D. Bioessays. 2004;26(1):21-28.
・ Genningloh R, et al. Cutting Edge: Inhibition of the retinoid X receptor (RXR)
blocks T helper 2 differentiation and prevents allergic lung inflammation. J Immunol. 2006; 176(9):5161-6.
・MICHAEL F.HOLICK, Ph.D., MD. THE VITAMIN D SOLUTION. ( Hupson Street Press )
・日本微量栄養素情報センター HP >> 免疫システムの概要、ビタミンD 項より
・小学館「サーファーに花粉症はいない」
・ペガサス「ビタミンDは長寿ホルモン」